林道を抜けて


真夏の林道を抜けると

山間に取り残された

集落に入った


舗装された道に沿って

高く積まれた石垣の上に

人家が並び

家々の周りを 石垣を

花々が明るく飾っていた

先の見えない

カーブした坂道が

暑い日ざしに白じらとして

途切れた過去の時間が

動いていた


花の間から

私を見下ろしている男の人

今 ふっとすれ違い

坂道を下っていく女の人


あなたは私のおとうさんですか

あなたは私のおかあさんですか


私の人生が始まった日よりも

もっともっと遡った

おとうさん おかあさん ではないですか


ぷっくりと愛らしい手足を出して

焼けた道端にしゃがんで

遊んでいるのは 幼い私

いくつもの命を遡った

私である前の私


道のはるか下を迸り流れる川を

ずっと下った町で

か細く淋しい命を生きている

今の私より

賢く幸せな生を生きられそうな

幼いその人
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