時の流れの隙間から 戻る

   
山からの沢水が

最初に流れ着く家に

もう人は住まない

流れは家の敷地の端に

浅い池をつくり

下の廃屋へと続いている


池には落ち葉が浮き

シダの葉を映し

小魚が棲むのか

ときおり広がる波紋が

時を揺らす


人は庭からの小道を下りて

農具を洗い

水辺の草花を眺めては

山を見上げ

幼い人たちは

足音をたててやってきて

水の中を覗きこんだだろうか


流れをはさんだ数軒の家も

みな崩れかかり

やがて季節が動き出し

それぞれの家の軒下から山すそへと

春の花が咲き広がる情景を思えば

暮らしの音が満ちていた過去から

今を越え

未知の時代へと

早回しの映像が

繰り返し流れていく

今ここに佇つ私の姿も

一瞬織りこめられて


ふと気づくと

時の流れの隙間から飛び出した

冬を越した蝶 キタテハが

うれしそうに

小刻みに地面に止まりながら

誰もいなくなった家へと

向かっていく

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