色水屋 戻る
あさがお おしろいばなほうせんか つゆくさ
庭で摘んだ花を
水の中で絞ると
伸びやかなすじを描きながら
花の色が溶け出し
きれいな色水をつくった
ガラスの小瓶に満たして
触れば痛いほど木目が浮き出た板壁の
小さな家の
窓の敷居のふちに並べて
色水屋になった
黄色 ピンク 水色 薄緑
妹や幼友達に売りながら
花や葉が染めた色水の美しさを
みつめていたとき
心の中で何かがすっと伸びたような気がした
曇りガラスの窓の中には
病気がちな祖父が寝ていて
祖父母 父 母
血の繋がりのない大人四人の
それぞれの一片ずつの淋しさの隣で
静かにご飯を食べながら
まだ知らない自分の中の芽と一緒に
育ってきた
陰の部分へとまっすぐに伸びていく芽を
おぼろげながら知り
明るさの中に伸びていく芽も
たしかに芽生えていたと今は思える
自分自身にうちひしがれるとき
それを超えて支えているもの
色水の美しさに見入っていた
あの日のまなざしのあたりから
消えることなく明るいほうへ
伸び続けてくれているもの