一ページ
理髪店の看板のある窓から
店主らしい人が顔を出して
笑っている
道を隔てた向かいの家の戸口に立つ人と
話をしているのだ
秋の日の一日が始まる朝
その人のひとときの光景が
やわらかな陽の中の
一枚のスナップ写真になって
行きずりの私の胸に
はらりと沈んだ
通り過ぎた後ろで
その人はまだ話を続けているだろう
やがて窓の奥に消え
客を迎える準備をするだろうか
ひとこと ふたこと 家族と言葉をかわし
変わらぬ日常の一ページ 一ページを
作り続け
重ね続けているだろう
忘れ去られる一瞬
意識することもない一瞬
自分さえ知らないその一瞬の姿を
時折
すれ違う人の胸に焼き付けて